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山﨑天さん主演 相鉄東急直通記念ムービー『父と娘の風景』感想・考察

 

相鉄東急直通記念ムービー『父と娘の風景』

この作品は、相鉄線と東急線の相互直通運転開始(相鉄新横浜線・東急新横浜線の開業)を記念して、相鉄グループが公開した。監督は柳沢翔さん。父役としてオダギリジョーさん、娘役として山﨑天さんが出演した。

柳沢翔さんは、各社のCMをはじめとする数多くの名作を手がけられており、2019年に相鉄線とJR線の相互直通運転を記念して相鉄グループが公開したムービー『100 YEARS TRAIN』の監督も務めている。『父と娘の風景』では、親子の12年間を148秒間に詰め込んだストーリーがワンカットで描かれた。ワンカットで撮影するために山﨑天さんとオダギリジョーさんを含め、娘役として25名のキャスト、父役として25名のキャストが出演した。オダギリジョーさんは「1組目の父」を演じたあと10秒間のヘアメイクで12年後の姿となり、「25組目の父」も演じたという。撮影の構図上、オダギリジョーさんが「25組目の父」を演じているとき、「1組目の父」も画面に映る。したがって、オダギリジョーさんが「25組目の父」を演じているときは、「1組目の父」を別のキャストが演じる必要があるため、父役のキャストも24名ではなく25名となっている。

ラストシーンで山﨑天さんが演じる「25組目の娘」は、この春から東京の大学に進学する学生で、メイキング映像で公開されたキャスト写真によると「大学生」とされている。山﨑天さんが大学生の役を演じるのは初めて。

ムービーは相鉄グループ YouTube・特設サイト・Twitterで公開された。インタビュー映像とメイキング映像も公開され、3月18日からは屋外広告とトレインジャック広告が掲出される。

 

父と娘の12年間

ムービーでは、カメラが車両を進行方向に移動する形で、12年間の親子の関係の変化が描かれている。12年間の親子の関係の変化は、25組の親子によって演じられた。山﨑天さんが演じるラストシーンの娘がこの春から大学に進学する学生で、最初の娘はこの春小学校に入学する。

以下、12年間の親子の関係の変化を順に考える。

ムービーが始まるとまず、電車の走行音とともに「手を離したあの日から、君はどこまで遠くへ行くんだろう。」という文字が映る。これは父の気持ちで、「君」とは娘のことだろう。これらの文字は紺色だが、これは相模鉄道の車両に塗色されている「YOKOHAMA NAVYBLUE」というイメージカラーを意図しているとみられる。この文字演出は、ラストシーンのあとにもある。

その後、車内の床が映し出され、「まもなく 西谷 西谷です」という車内アナウンスが聞こえる。西谷駅は相模本線と新しく開業する相鉄新横浜線を結ぶ駅。画面右上に車内ビジョンが見える。文字は不鮮明で読めないが、次が西谷駅であることと駅名の文字数や使用されている漢字の密度から推測すると、電車は鶴ヶ峰駅と西谷駅の間を走行しているとみられる。

1組目の親子。父が「よし、降りようか」と声をかけると、娘は「とおーい」と言う。父が「あっという間だよ」と応え、「あっ、ちょっと待って」と娘の襟を整える。このとき娘が着ている洋服は私服とも制服ともとれる。父はスーツを着用している。両者ともグレーを基調としたデザインである。画面左に見える広告ポスターには、「ランドセルフェア」と書かれている。「1組目の親子」のシーンは春である。

2組目の親子。父はスーツの腕をまくり、娘の洋服は半袖になっている。しかし、洋服のデザインは「1組目の娘」と変わっていない。したがって、「1組目の娘」が着ていたのは学校の制服で、「2組目の娘」が着ているのは夏仕様の制服だと推測できる。暑そうな娘の汗を父がハンカチで拭いてあげている。画面左に見える広告ポスターには、「七夕セール 2011」と書かれている。したがって、これは「2011年7月ごろの親子」であり、2023年の12年前にあたる。このムービーは12年間の物語を描いているため、最初の1年目ということになる。

3組目の親子。娘の寝ぐせを父が笑いながら直している。娘は「1組目の娘」の制服と同じものを着ているとみられる。画面左の広告ポスターには、「秋の味覚フェア 2012」という文字が見える。2011年夏から突然、2012年の秋に飛んだように思われるが、12年間を「25組の親子」で描くために「2組の親子」で1年間を描くのは理にかなっている。「3組目の親子」は2年目を描いているということになる。

4組目の親子。父はマフラーを着用しており、娘にもマフラーを巻いてあげている。最後に父が娘の頭を優しくなでる。画面左の広告ポスターには、「ウィンターセール 2012」という文字が見える。「2組の親子」で1年間が描かれている。

5組目の親子。ぬいぐるみをもらったのか、嬉しそうな娘の頭を父がなでている。このぬいぐるみは相模鉄道のキャラクター「そうにゃん」だろう。画面左の広告ポスターには、「こどもの日フェア 2013」という文字が見える。小学3年生の5月ごろだ。

6組目の親子。カチューシャをしてネックレスを嬉しそうに見せる娘に、父が微笑む。ここで大きな変化が起きている。「5組目の親子」までは、頭をなでたり、髪や服装を直してあげたりと、父が娘に触れていた。しかし「6組目の親子」では、父が控えめにネックレスを触ろうとするだけで娘には触れていない。また、娘はバッグを背負っておらず、父はこれまでのバッグとは異なるバックパックを背負っている。娘の洋服もデザインは似ているもののこれまでの制服と違ってスカートではないため、私服かもしれない。ネックレスを小学校に着けていくとも考えにくく、休日に2人でおでかけするのだろうか。

7組目の親子。娘が背番号10のユニフォームを自慢げに見せて、父は指を差しながら驚いている。サッカーの習い事にでも行くのだろうか。ここでも父は娘に触れていない。

8組目の親子。「恵方巻」の文字が見える小学4年生の冬。父が娘のブレスレットを指差すが、娘は見せたがらずに手で隠してしまう。ぬいぐるみ、ネックレス、ユニフォームを父に向かって嬉しそうに見せていた娘だったが、ここでは笑顔もない。

9組目の親子。小学5年生、2015年の春。父が娘の襟を指差して直してあげようとするが、娘は父のほうを向かず自分で直してしまう。自分で直せるし、父に直されたくないくらいには大人になったということだろう。同時に、父に指摘されるまで襟が立っていることに気づかないほどにはまだ幼いともいえる。バッグの横にはぬいぐるみがつけられている。これは「5組目の娘」が嬉しそうに父に見せていたものだ。父のことが本当に嫌いになったというわけではないのだろう。ここから電車は大きく曲がり始める。これまでは直線を走行していたため、過去の親子の姿を遠目に振り返ることができたが、曲がったことで見えなくなっていく。

10組目の親子。小学5年生、2015年の夏。前髪を整える娘に、父は何かしてあげようとするがタイミングをつかめず何もできない。娘は笑顔だが、その目線の先は父ではなく鏡に映る自分自身だ。バッグの横には、あのぬいぐるみが見える。

11組目の親子。小学6年生、2016年の秋。「10組目の娘」より大きめのミラーで前髪を整える娘に父が触れようとするが、露骨に避けられてしまう。

12組目の親子。小学6年生、2016年の冬。父は娘にマフラーを巻くよう勧めるが、娘は「いい」と言って拒む。バッグの横にはまだ、あのぬいぐるみがついている。

13組目の親子。2017年の春。制服がグレーのセーラー服に変わった。中学校に入学したのだろう。娘が手にするスマホを覗き込もうとする父だが、娘は父に背を向け目を合わせようともしない。娘が背を向けているため、あのぬいぐるみがバッグについているのか確認すらできない。

14組目の親子。中学1年生、2017年の夏。娘の髪色が大きく変わった。このあと雨が降る予報だったのか、父は娘に折り畳み傘を差し出すが、娘はスマホに夢中で見向きもしない。「12組目の娘」がマフラーを勧められたときは拒んだものの、拒んだのだ。「14組目の娘」は拒むこともせず、父に気づいているのかさえわからない。ぬいぐるみがついているのかも確認できない。そして、娘が髪を染めたのと同時に、父の髪色も変わった。40歳の父に白髪が見え始める。

15組目の親子。中学2年生、2018年の秋。父が娘の肩に触れて無理やり向かせようとするが、娘は誰かと電話しており、父の手は振り払われてしまう。振り払ったとき、バッグの横が見えた。ぬいぐるみはついていなかった。中学1年生になった「13組目の娘」のときからついていなかったのかもしれないし、中学2年生になってから外したのかもしれない。

16組目の親子。中学2年生、2018年の冬。娘に何か言われた父は、一瞬悲しそうな顔を見せたあと頭をかく。父の思いは今の娘とすれ違う。

17組目の親子。中学3年生、2019年の秋。ヘッドホンをしてスマホを片手に見る娘。父はスマホを片手に体を横に向けるものの、目線は娘を気にしているようだ。スマホの持ち方もどこかぎこちない。娘の気持ちを理解しようと真似てみたのだろうか。しかし、この時期の娘からすれば、そのような気づかいさえうざったく感じるものだ。

18組目の親子。中学3年生、2019年の冬。これまで春夏秋冬が順番に過ぎていったが、突然、春と夏を飛ばして秋と冬になった。さらに、「18組目」は一瞬で過ぎ去り、これまでの親子よりも時間が短いように思われる。ここまで「17組」で8年間をたどり、父と娘の関係にはさまざまな変化があった。しかし、「18組目」では季節を飛ばして一瞬で過ぎ去るほど、変化すらなかったということなのだろうか。父もスマホを片手に見て、娘に向くことはない。

19組目の親子。2020年の春。制服が変わった。高校に入学したのだろう。父と娘は何か言いたげに一瞬お互いのほうを向きかけるが、すぐ手元のスマホに戻ってしまう。ここで、このときの「19組目の親子」と「過去の親子」の対比に着目する。カーブに差しかかったことで車体が揺れて、「14組目の娘」から「18組目の娘」が一斉に父に背を向ける。一方で、「19組目の親子」はちょうどそのとき、お互いに目が合う。少しずつまた、2人は近づきつつあるのだろうか。「13組目の娘」と「14組目の娘」はぬいぐるみがついているのかすら確認できず、「15組目の娘」でやっとついていないことがわかった。このとき背を向けたということは、「14組目の娘」の時点ですでに外していたのだろうか。

20組目の親子。高校1年生、2020年の夏。眠そうにあくびをしてよろける父を娘は気にするが、今度は逆に、父が娘に気づいていない。父はスーツを着用してキャリーバッグを持っているため、これから出張に行くのだろうか。このあたりから揺れがおさまってきて、電車は昔のように直線を走り始める。線路の曲がり具合と電車の揺れは、父と娘の行き違いを表現しているのかもしれない。

21組目の親子。高校2年生、2021年の春。娘のスマホが単語帳に変わり、髪も落ち着いた色になった。白髪混じりの父の寝ぐせに気づいた娘は、指を差して教えてあげる。2012年の秋、9年前の「3組目の親子」を思い出す風景だが、父と娘の立場が逆転している。

22組目の親子。高校2年生、2021年の夏。娘の顔には疲れが見られ、髪もボサボサだ。ミラーを見て髪を整えたり、髪を染めたり、身だしなみやおしゃれに少なくとも無頓着ではなかった娘だったが、ここにきて寝ぐせが見える。今度は父が指を差して教えようとするが、娘は少し驚いた表情を見せて一瞬髪を気にしたあと、すぐに右手に持っているノートに目を移す。1年後に大学受験を控え、朝の通学から夜遅くまで勉強をがんばっているのだろう。父は娘の変化に戸惑うような表情を見せる。

23組目の親子。高校3年生、2022年の秋。ノートで勉強する娘に、父はそっとゼリー飲料を渡す。父はすぐに横を向いてしまうが、渡されたことに気づいた娘は笑顔を見せる。父は娘を応援している。

24組目の親子。高校3年生、2022年の冬。父がマフラーを渡すと、娘は素直に受け取った。よく見てみると、お揃いのマフラーだ。過去を振り返ると、これまで登場した2人のマフラーはどれもすべてお揃いのものだった。娘のマフラーのサイズは大きくなって、途中で拒まれたり拒んでもくれなかったりしたが、父はずっと同じマフラーを巻いていた。

そして2023年の春、娘は東京の大学に進学する。西谷駅に到着した。「2組目の親子」から「24組目の親子」が一斉に降りた。少し遅れて「1組目の親子」もドアに向かう。誰もいなくなった車内で父と娘が言葉を交わす。

「東京、遠いな…」

「え? あっという間だよ」

「…そうだよな」

父はいつもと変わらず西谷駅で降りていく。その後ろ姿を見送って、娘は微笑む。東京へ向かう電車の走行音とともに文字が映る。

「いってらっしゃい、君が思うところまで。」

車内アナウンスが聞こえる。

「まもなく 渋谷 渋谷」

 


 

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